どんなに高精細な画像をオンラインで見ても、伝わらないことがある。イタリア・ミラノ在住の美術家、廣瀬智央(ひろせ・さとし)(57)は、匂いや手触りなど体感で味わうインスタレーションで知られている。現在、前橋と東京で個展を開催中。会場に身を置くうち、コロナ禍で縮こまっていた感覚がゆっくり解きほぐされてゆく。(文化部 黒沢綾子)
嗅覚を刺激する
アーツ前橋(前橋市)で開かれている初の大規模個展「地球はレモンのように青い」。何よりもまず、さわやかな香りがマスク越しに押し寄せてくる。
展示室の床一面を埋め尽くす、3万個超のレモン。1997年に東京・銀座で発表した代表作「レモンプロジェクト03」を、3倍の規模にパワーアップし再制作したものだ。
なぜレモン? それは廣瀬自身の体験が基になっている。多摩美術大卒業後、イタリア政府給費奨学生として留学。ソレント半島でレモン畑に出くわしたときの、えもいわれぬ喜び-。それを誰かと共有するために「香り」は欠かせなかった。嗅覚は時に、視覚よりも深く記憶につながるからだ。
「西洋美術は伝統的に視覚優位。目にみえない、形の残らないものは軽視されてきた。その中で、僕は目に見えないものを視覚化しようとしてきた」と廣瀬は振り返る。
例えば「時間」。約2カ月の会期中、大量のレモンは入れ替えられることなく、日々、色も風合いも変化してゆく。
香りにも秘密がある。実は、レモンの精油を室内に散布し増幅させているのだ。ちょっぴり残念、と思う人もいるだろう。でもこれは、極端な自然礼賛のように、一極にふれることを良しとしない作家の姿勢を反映している。会場には他に、造花で覆ったオブジェ「フォレストボール」や、植物の種を入れて土を丸めた「種団子」も点在。自然と人工が混じり合い、詩的な空間をつくっている。
あいまいで、複雑
イタリアの美術運動「アルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)」の作家、ルチアーノ・ファブロ(1936~2007年)に師事した廣瀬は、身の回りにあるものを素材に、日常の中のささやかな「生の喜び」をすくい上げてきた。特に、食材を使うことが多いのは「やっぱりイタリアは食べ物がおいしいので(笑)。トスカーナの庶民料理、豆のスープは“貧しいけど豊か”なんです」。
生と死をつなぐ存在として捉えられてきた「豆」は、廣瀬作品に頻出する。住み慣れたイタリアと日本、そして世界各地を旅して多様性に触れるうち、「両義的に物事をとらえるようになった」と廣瀬。両義的存在である豆をアクリル樹脂に封じ込めたオブジェは、あいまいで複雑な世界と、その豊かさを表象するのだろう。
プロセスが大事
アーツ前橋の屋上看板は空の写真になっている。廣瀬が7年ほど前、前橋市内の母子生活支援施設の子供たちと交流する中で生まれた作品だ。互いに撮った空の写真をエアメールで交換するなど関係を育み、交流プロジェクトは今後も続く。「着地点を決めて落とし込むことはしない」。協働し、相互理解を深めるプロセスが大事だと強調する。
廣瀬の活動を俯瞰する今回の展示には、「触れる」作品もある。消毒など細心の注意を払った上で、来館者に判断を任せている。ポストコロナの美術館はまだ独特の緊張感に包まれているが、「今だからこそ、感覚を使う廣瀬作品の意義が、より深く理解されるのではないか」と同館の五十嵐純学芸員は語る。感覚を開くうちに、「生の喜び」がじんわり心にわいてくるだろう。
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「地球はレモンのように青い」展は7月26日まで、水曜休館。一般500円、学生・65歳以上300円、高校生以下無料。問い合わせはアーツ前橋(027・230・1144)。
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東京・六本木の小山登美夫ギャラリーで開催中の「奇妙な循環」展は、新作を中心に、オブジェや絵画、写真など表現もさまざまな作品が緩やかに連関する。謎解きのような空間が面白い。7月4日まで。日・月曜休み。入場無料。
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June 27, 2020 at 07:00AM
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